浦和地方裁判所 平成8年(行ウ)31号 判決 1999年11月29日
原告
須田文夫
右訴訟代理人弁護士
桜井和人
被告
本庄税務署長 高木茂寛
右指定代理人
大圖明
同
須藤哲右
同
佐藤陽比古
同
金谷滝夫
同
増村高志
同
中村孝
同
黒尾眞澄
同
磯野宏
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成三年一二月二四日付けで原告の昭和六三年度の所得税についてした更正処分のうち総所得金額一二九七万一〇〇〇円、分離短期譲渡所得六一万六七一五円、分離長期譲渡所得三一七九万二六七五円、納付すべき税額六一四万一七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により変更された後のもの)をそれぞれ取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対しる答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告の昭和六三年度(以下「本件事業年度」という。)の所得税について、原告の行った確定申告及び修正申告に対して被告が行った更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税の賦課決定処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件重加算税の賦課決定処分」といい、本件過少申告加算税の賦課決定処分と、本件重加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)、原告の異議申立てに対する被告の決定、原告の審査請求、これに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は、別表一のとおりである。
2 しかし、本件更正処分のうち原告の修正申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、本件更正処分を前提としてされた本件各賦課決定処分も違法である。
3 よって、原告は、本件更正処分のうち原告の修正申告に係る所得金額を超える部分及び本件各賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により変更された後のもの)の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、認める。
2 請求原因2は、争う。
三 被告の主張
1 本件更正処分の根拠及び適法性
原告の本件事業年度の所得金額は、次のとおりである。
(一) 不動産所得の金額 三一万六〇〇〇円
(二) 給与所得の金額 一二五四万五〇〇〇円
(三) 総所得金額 一二九七万一〇〇〇円
右金額は、(一)と(二)の合計額である。
(四) 分離短期譲渡所得の金額 二億四五二三万二四九七円
右金額の内訳は、次の(1)ないし(4)の合計額である。
(1) 中田不動産株式会社(以下「中田不動産」という。)の株式(以下「本件株式」という。)四〇〇〇株の譲渡益のうち原告に係る分離短期譲渡所得の金額 一億五九九八万九二五〇円
原告は、本件株式の売買に当たり、その譲渡益が所得税法による課税所得に該当しないようにするため、自己の売買株式数を一〇〇〇株とし、その余の三〇〇〇株の本件株式の売買名義を石原武彦(以下「石原」という。)、原田昭美(以下「原田」という。)及び今井るみ子(以下「今井」といい、石原、原田及び今井を併せて「石原ら三名」という。)の名義に分散したのであるから、石原ら三名の名義による本件株式の取引の譲渡益は、原告に帰属する。そして、別表二の三のとおり、原告の本件株式の譲渡益(一億六二五〇万円)の、本件株式総数七二〇〇株の譲渡益(三億七六六〇万円)に占める割合は、四三・一五パーセントであり、昭和六三年政令第三六二号による改正前の所得税法施行令(以下「旧施行令」という。)二八条一項一号の事業等の譲渡に類似する有価証券の譲渡に該当し、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)九条一項一一号への非課税所得には当たらず、課税所得とされる。また、本件株式を発行する中田不動産が有する土地は、中田不動産の資産の価額の総額の九三・八一パーセント(別表二の一)に相当し、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三二条二項及び同法施行令二一条五項に該当する場合であるから、右所得は、分離短期譲渡所得である。
本件株式の譲渡益に係る分離短期譲渡所得の金額は、次の(ア)の譲渡益から(イ)の譲渡費用を控除した額である。
(ア) 譲渡益 一億六二五〇万円
右金額は、別表二の二の本件株式の原告の譲渡益と石原ら三名の譲渡益の合計額である。
(イ) 譲渡費用 二五一万〇七五〇円
右金額は、本件株式の譲渡後に作成された有価証券収引書に貼付された収入印紙(有価証券取引税)のうち、原告の負担分である。
(2) 埼玉県本庄市(以下「本庄市」という。)若泉一丁目二九〇番二、同二九一番二、同二九七番一及び同二九七番四ないし六の六筆の土地(公簿面積三一八六・七四平方メートル、実測面積三三四九・四四平方メートル。以下、右六筆の土地を併せて「本件若泉土地」という。)譲渡の分離短期譲渡所得の金額 九〇六一万六七一五円
原告が、昭和六三年一月三〇日、株式会社大協ハウジング(以下「大協ハウジング」という。)に対し、本件若泉土地を譲渡したことによる土地譲渡の分離短期譲渡所得の金額であり、次の(ア)の収入金額から(イ)の取得費及び(ウ)の譲渡費用を控除した額である。
(ア) 収入金額 二億六一九〇万九〇〇〇円
(イ) 取得費 一億四七〇八万五二八五円
(ウ) 譲渡費用 二四二〇万七〇〇〇円
右金額は、原告の確定申告に係る譲渡費用額(八四二〇万七〇〇〇円)から、合名会社永徳屋(以下「永徳屋」という。)に対する移転補償費六〇〇〇万円を控除した金額である。
原告は、本件事業年度の本件若泉土地の譲渡所得の計算において、永徳屋が本件若泉土地上に有する建物一八棟(以下「本件若泉建物」という。)の大協ハウジングへの売却について、永徳屋に対して支払った移転補償費六〇〇〇万円を譲渡費用としている。しかし、永徳屋は、本件若泉土地を、自ら大協ハウジングと交渉し譲渡価格を定める等して譲渡したのであって、原告が永徳屋に移転補償費を出捐しなければならない経済的必要性・合理性はなく、右移転補償費六〇〇〇万円を本件若泉土地の譲渡所得の譲渡費用と認めることはできない。
(エ) なお、原告は、本件若泉土地の譲渡所得の算出に当たり、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)の特別控除額三〇〇〇万円を控除して申告しているが、本件において、同条項の適用はない。すなわち、措置法三五条一項により、特別控除の適用の対象となるのは、個人がその居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供されている土地を譲渡した場合であるところ、本件若泉建物は、永徳屋の所有であり、原告所有ではないから、本件若泉土地の譲渡所得算出に当たり、居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用はない。
(3) 本庄市銀座二丁目四〇六六番二及び三の二筆の土地(公簿面積五一一・七二平方メートル、実測面積五二六・七〇平方メートル。以下「本件銀座土地」という。)上の借地権譲渡の分離短期譲渡所得の金額 〇円
原告は、昭和六三年四月二七日、早稲田開発株式会社(以下「早稲田開発」という。)に対し、本件銀座土地を一億二七六四万円で譲渡するに際し、永徳屋が本件銀座土地の一部に有していた借地権(以下「本件銀座土地借地権」という。)を買い取って、借地権を消滅させた上で本件銀座土地を早稲田開発へ譲渡した。
本件銀座土地借地権の譲渡に係る分離短期譲渡所得の金額は、次の(ア)の収入金額から(イ)の必要経費を控除した額である。
(ア) 収入金額 三〇五九万円
原告は、本件銀座土地借地権を取得し、右借地権を消滅させた上で本件銀座土地を譲渡したのであるから、借地権の譲渡に係る収入金額は、本件銀座土地の譲渡収入金額から求められる次の(イ)の必要経費と同額である。
(イ) 必要経費 三〇五九万円
右金額は、別紙計算書記載の式から求められる本件銀座土地借地権相当額である。
本件銀座土地借地権相当額は、本件銀座土地の価格、すなわち、本件銀座土地の譲渡収入金額を基礎にして求められ、本件銀座土地上には、原告所有の建物と永徳屋所有の建物が存在し、永徳屋は、その所有建物について本件銀座土地の借地権を有しており、永徳屋が有する借地権の及ぶ範囲は、本件銀座土地上のすべての建物の一階床面積合計(三七二・四平方メートル)に対して、永徳屋が有する建物の一階床面積合計(一四八・七五平方メートル)が占める割合に比例する。そして、借地権割合六〇パーセントは、本件銀座土地の借地権割合として、原告が申告に用いた割合であり、相続税評価通達に照らしても相当である。
(4) 埼玉県児玉郡児玉町大字八幡山字町西三四七番一及び二、同三四八番一及び四の四筆の土地(以下「本件児玉1土地」という。)、同二七四番、同二七五番一及び二の三筆の土地(以下「本件児玉2土地」という。)並びに同三四八番の一筆の土地(以下「本件児玉3土地」といい、本件児玉1土地、本件児玉2土地及び本件児玉3土地を併せて「本件児玉土地」という。)譲渡の分離短期譲渡所得の金額
△五三七万三四六八円(「△」は赤字を示す。以下同じ。)
原告が、昭和六三年、本件児玉土地を譲渡したことによる土地譲渡の分離短期譲渡所得の金額であり、次の(ア)の収入金額から(イ)の取得費及び(ウ)の譲渡費用を控除した額である。
(ア) 収入金額 一億六三七八万円
次の<1>、<2>及び<3>の合計である。
<1> 本件児玉1土地の譲渡収入金額 五二九八万円
<2> 本件児玉2土地の譲渡収入金額 七〇八〇万円
<3> 本件児玉3土地の譲渡収入金額 四〇〇〇万円
(イ) 取得費 一億六七八五万三四六八円
右金額は、原告が、昭和五八年九月二八日付けの不動産売買契約書に基づき、本件児玉土地を取得した際の、<1>取得費一億三三二一万円、<2>仲介手数料四〇〇万円、<3>登記手数料二五万三二〇〇円、<4>測量費四〇万円、<5>本件児玉土地を取得するのに要した借入金の支払利息二九九九万〇二六八円の合計額である。
(ウ) 譲渡費用 一三〇万円
右金額は、原告が、本件児玉土地の譲渡に係る仲介料として、株式会社山下商事に対し一〇〇万円を、武井包光に対し三〇万円を支払った合計額である。
(五) 分離長期譲渡所得の金額 五七七九万〇二一三円
右金額は、次の(1)及び(2)の合計額から(3)を控除した金額である。
(1) 本件銀座土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額 五七三六万五二一三円
右金額は、前記のとおり、原告が昭和六三年四月二七日に本件銀座土地を早稲田開発に譲渡したことによる土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額(措置法三七条適用後の金額)であり、次の(ア)の収入金額から(イ)の必要経費を控除した額である。
(ア) 収入金額 六〇四五万円
右金額は、次の<1>と<2>の合計額である。
<1> 譲渡価額から買換資産の取得価額を控除した額 五一三〇万円
右金額は、本件銀座土地の譲渡価額九七〇五万円(原告の申告による譲渡金額一億二七六四万円から本件銀座土地借地権相当額三〇五九万円を控除した額)から、買換資産の取得価額四五七五万円(原告の申告額)を控除した金額である。
<2> 買換資産の取得価額の二〇パーセント相当額 九一五万円
右金額は、措置法三七条を適用した<1>の買換資産の取得価額四五七五万円の二〇パーセント相当額であり、原告の申告額である。
(イ) 必要経費 三〇八万四七八七円
右金額は、措置法三一条の五(長期譲渡所得の概算取得費控除)を適用し、本件銀座土地の概算取得費四九五万二五〇〇円(本件銀座土地の譲渡価額九七〇五万円に五パーセントを乗じた額四八五万二五〇〇円と譲渡に要した費用としての印紙代一〇万円の合計額)に、本件銀座土地の譲渡価額に占める収入金額の割合を乗じた金額である。
なお、永徳屋からの本件銀座土地借地権の買取費用は、本件銀座土地借地権譲渡の分離短期譲渡所得の必要経費とされるものであり、本件銀座土地の譲渡費用に該当しない。
(2) 本庄市本庄三丁目四〇〇六番一七の一筆の土地(以下「本件本庄土地」という。)譲渡の分離長期譲渡所得の金額 一四二万五〇〇〇円
右金額は、原告が、昭和六三年、大協ハウジングに対し、本件本庄土地を譲渡したことによる土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額(措置法三七条適用後の金額)であり、次の(ア)の収入金額から(イ)の取得費を控除した額である。
(ア) 収入金額 一五〇万円
(イ) 取得費 七万五〇〇〇円
右金額は、措置法三一条の五を適用した(ア)の収入金額の五パーセントに相当する金額である。
(3) 長期譲渡所得の特別控除額 一〇〇万円
右金額は、措置法三一条(長期譲渡所得の課税の特例)四項の長期譲渡所得の特別控除額である。
(六) 所得から差し引かれる金額 二七四万八二六〇円
右金額は、社会保険料控除七〇万三二六〇円、生命保険料控除五万円、損害保険料控除一万五〇〇〇円、扶養控除一六五万円及び基礎控除三三万円の合計額であり、いずれも原告の確定申告に係る額と同額である。
(七) 課税される所得金額
課税される所得金額は、次のとおりである。
(1) 課税総所得金額 一〇二二万二〇〇〇円
右金額は、(三)の総所得金額から、(六)の所得から差し引かれる金額を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。
(2) 課税分離短期譲渡所得の金額 二億四五二三万二〇〇〇円
右金額は、(四)の分離短期譲渡所得の金額から通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。
(3) 課税分離長期譲渡所得の金額 五七七九万円
右金額は、(五)の分離長期譲渡所得の金額から通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。
(八) 算出税額 一億七〇七〇万八二六〇円
右金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である。
(1) 課税総所得に係る算出税額 二一八万八八〇〇円
右金額は、(七)(1)の課税総所得に昭和六三年分の所得税の臨時特例に関する法律(昭和六三年法律第八五号)に規定する税率を適用して算出したものである。
(2) 課税分離短期譲渡所得に係る算出税額 一億五六〇七万一九六〇円
右金額は、(七)(2)の課税分離短期譲渡所得の金額に措置法三二条を適用して算出したものである。
(3) 課税分離長期譲渡所得に係る算出税額 一二四四万七五〇〇円
右金額は、(七)(3)の課税分離長期譲渡所得の金額に措置法三一条を適用して算出したものである。
(九) 源泉徴収税額 二六五万一八九〇円
(一〇) 納付すべき税額 一億六八〇五万六三〇〇円
右金額は、(八)の算出税額から(九)の源泉徴収税額を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。
(一一) 本件更正処分の適法性
原告の本件事業年度所得税の課税される総所得金額は、一〇二二万二〇〇〇円、分離短期譲渡所得の金額は、二億四五二三万二〇〇〇円、分離長期譲渡所得の金額は、五七七九万円、納付すべき税額は、一億六八〇五万六三〇〇円であり、本件更正処分における金額といずれも同額であるから、本件更正処分は、適法である。
2 本件各賦課決定処分の根拠及び適法性
(一) 本件過少申告加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性
本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった所得(ただし、本件株式の譲渡による所得を除く。)のうち、原告が確定申告の所得としなかった部分につき、通則法六五条(過少申告加算税)四項の「正当な理由」はない。
よって、本件更正処分により、原告が納付することとなった所得税(本件株式の譲渡による所得を除いた所得に対応する本件更正処分額と修正申告額との差額)について、同法六五条の規定に基づいてされた本件過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、裁決により変更された後のもの)は、適法である。
(二) 本件重加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性
前記1(四)(1)記載の、原告が、本件株式を取得、譲渡するにつき、石原ら三名の名義を借りた行為は、通則法六八条一項に定める「隠ぺい又は仮装」に該当する。
よって、原告の本件株式の譲渡による所得について重加算税を賦課した本件重加算税の賦課決定処分(ただし、裁決により変更された後のもの)は適法である。
四 被告の主張に対する認否
1(一) 抗弁1(一)ないし(三)は、認める。
(二) 同1(四)(1)は、否認し、(2)のうち、(ア)及び(イ)は認め、(ウ)、(エ)は否認し、(3)のうち、本件銀座土地借地権が本件銀座土地の一部に係るものであることは否認し、その余は、認め、(4)は、認める。
(三) 同1(五)(1)は、否認し、(2)及び(3)は、認める。
(四) 同1(六)は、認める。
(五) 同1(七)(1)は、認め、(2)及び(3)は、否認する。
(六) 同1(八)(1)は、認め、(2)及び(3)は、否認する。
(七) 同1(九)は、認める。
(八) 同1(一〇)は、否認し、(二)は、争う。
2 抗弁2は、争う。
五 原告の反論
1 本件株式の帰属について
(一) 中田不動産の発行済株式総数は七二〇〇株であるところ、原告及び石原ら三名は、早稲田開発から、本件株式をそれぞれ一〇〇〇株ずつ取得したのであるから、旧施行令二八条一項に該当しない。よって、本件株式の譲渡による所得は、課税の対象とはならない(旧所得税法九条一項一一号へ)。
なお、石原ら三名の本件株式の購入資金は、ほとんど原告の貸付によるものであるが、原告は、中田不動産の将来の事業展開にとって、中田不動産の株式(本件株式)を未知の第三者に取得させるのが不安であったことなどから、原告の信用における知人である石原ら三名に本件株式取得を要請し、石原ら三名が、その取得資金の調達が困難であったことから、これを貸し付けたものであり、右貸付けは、単なる金銭消費貸借契約にすぎない。また、原告が、本件株式一〇〇〇株をエム・ユー・シー企画有限会社(以下「MUC企画」という。)に売却した譲渡益が一億五九五〇万円であるのに対し、石原ら三名が、本件株式各一〇〇〇株をMUC企画に売却した譲渡益は、各一〇〇万円であるが、本件株式は、未公開株式であり、その価格は、売り手と買い手との相対により決められるのであるから、原告の譲渡益と石原ら三名のそれとの間に、相違があっても何ら不自然ではないし、原告は、多大な費用と労力を投入して、中田不動産が所有する建物からテナントを立ち退かせる問題を解決したことがあり、それを売却価格に反映させたのであるから、原告の本件株式の売却価格に、不合理性はない。
(二) 仮に、右主張が認められないとしても、本件株式のMUC企画に対する売却に係る譲渡益は、早稲田開発に帰属するから、いずれにしても、原告が、本件株式の売却の譲渡益につき課税されることはない。
すなわち、本件株式の株券は、昭和六二年一一月三〇日に早稲田開発が株式会社住宅総合センター(以下「住宅総合センター」という。)から四億五〇〇〇万円を借り受けたときに、その担保として、同社に交付され、昭和六三年一一月三〇日、早稲田開発が、右借入金を完済したときに返還されたものであること、右借入れの際の手数料、完済までの利息は、早稲田開発が負担していたこと、本件中田土地建物の明渡し問題の解決に要した六〇〇〇万円を早稲田開発が負担したこと、本件株式のMUC企画への譲渡の交渉は、早稲田開発の代表取締役である佐野義之(以下「佐野」という。)が担当したこと、早稲田開発は、本件株式をMUC企画に譲渡する際、一定の利益を得ていることからすると、本件株式をMUC企画に譲渡した際の譲渡益は、実質的には、早稲田開発に帰属するものである。
2 本件若泉土地の譲渡費用について
原告が本件若泉土地を大協ハウジングに売却した際、永徳屋も、大協ハウジングに対し、本件若泉土地及び本件若泉土地に隣接する土地上に存する永徳屋所有の建物一八棟(本件若泉建物)と機械設備等を売却したが、原告は、本件若泉土地の売却に当たり、永徳屋に本件若泉建物や機械設備等の売却に応じさせるために、永徳屋に対し、本件若泉建物からの移転補償として六〇〇〇万円を支払うこととした。そして、永徳屋が、本件若泉建物と同様の物件を取得するためには、二億円近くの費用が必要であり、原告が、移転補償として支払った六〇〇〇万円は、合理的な金額である。よって、移転補償費六〇〇〇万円は、原告が本件若泉土地を売却するために必要な費用であったから、譲渡費用として計上されるべきものである。
3 居住用財産の特別控除(措置法三五条)について
原告は、昭和四〇年以来、本件若泉建物のうちの一棟(以下「本件若泉建物甲」という。)に継続して居住しており、右建物は、永徳屋の資産として、帳簿上計上されていない。よって、右建物は、原告の居住用財産であるから、本件若泉土地の譲渡所得の算出に当たっては、居住用財産の特別控除(措置法三五条一項)が適用されるべきである。
4 本件銀座土地の借地権相当額について
被告は、本件銀座土地譲渡の分離長期譲渡所得に係る収入金額について、本件銀座土地の譲渡価格から、本件銀座土地の借地権相当額を控除するに当たり、本件銀座土地上の原告所有建物と永徳屋所有建物の一階の床面積の割合に応じて借地権相当額を算出している。
しかし、本件銀座土地上の原告所有建物は、原告は一切使用せず、永徳屋が物置として使用していたものであるから、永徳屋は、本件銀座土地すべてを占有して原告に地代を支払っており、本件銀座土地すべてに借地権を主張しうる地位にあった。
よって、借地権相当額の算出について、被告が採用した右方法は誤りである。
また、永徳屋からの本件銀座土地借地権の買取費用は、本件銀座土地の借地権譲渡の分離短期譲渡所得の必要経費とされるべきものであるとの被告の主張は、取引の実体をみない、機械的、形式的論理である。
六 原告の主張に対する認否
いずれも争う。原告の主張1(二)は、時機に遅れた攻撃的防御方法であるから却下されるべきである。
第三証拠
本件訴訟記録における書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1並びに抗弁1のうち(一)ないし(三)、(四)(2)の(ア)及び(イ)、同(3)(ただし、本件銀座土地借地権が本件銀座土地の一部に係るものであることを除く。)及び(4)、(五)(2)及び(3)、(六)、(七)(2)及び(3)、(八)(2)及び(3)、(九)は、当事者間に争いがない。
二 本件の主な争点は、<1>本件株式の譲渡所得が、分離短期譲渡所得として課税対象となるか、<2>本件若泉土地の譲渡費用に、原告が永徳屋に対して支払った移転補償費六〇〇〇万円が含まれるか、<3>本件若泉土地の譲渡所得について居住用財産の特別控除が適用されるか、<4>本件銀座土地の借地権相当額及び右借地権取得に対する課税の位置づけである。以下、これらの点について、判断する。
三 右当事者に争いのない事実、本件証拠(甲第一号証、第二号証の二ないし一〇、第三ないし第一〇号証、乙第一ないし第一七号証(ただし、甲第一、第三、第六ないし第一〇号証、乙第一三ないし第一五号証は、いずれも後記採用しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。))及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 本件株式の取引の経緯について
(一) 原告は、永徳屋商事株式会社(以下「永徳屋商事」という。)の代表取締役であるが、昭和五七年四月二〇日、パチンコ店を営む早稲田開発の全株式を取得して同社を買収し、昭和六一年四月一一日まで同社の代表取締役であった。
佐野は、昭和五八年四月、足利銀行を退職して早稲田開発に入社し、昭和六一年四月一一日、早稲田開発の代表取締役となり、原告から、早稲田開発の全株式を譲り受けた。
深町金市(以下「深町」という。)は、昭和五八年六月、足利銀行を退職して永徳屋商事に入社し、入社と同時に早稲田開発へ出向し、その後、早稲田開発の監査役に就任した。
小林昇(以下「小林」という。)は、運送業を営む上里産業株式会社の代表取締役であるが、原告の知人で、同社は、原告が経営する食品会社を得意先としている。
片見佶(以下「片見」という。深町及び小林と併せて「深町ら三名」といい、深町ら三名と石原ら三名を併せて「石原ら六名」という。)は、昭和六二年四月、足利銀行から日本ベロー株式会社(代表取締役は、原告である。)へ出向し、同年五月、その副社長に就任し、同年八月、足利銀行を退職し、同時に永徳屋商事の副社長に就任し、昭和六三年に代表取締役社長に就任した。
石原は、昭和五一年、本庄食品株式会社(代表取締役は、原告である。)に入社し、その後、永徳屋商事の役員に就任した。
原田及び今井は、いずれも原告の知人である。
(二) 早稲田開発は、昭和六二年一一月三〇日、中田不動産の全株式七二〇〇株を取得した。
早稲田開発は、右株式を取得するに当たり、住宅総合センターから四億五〇〇〇万円を借り入れ、その担保として、右株式の株券を住宅総合センターへ差し入れた。住宅総合センターは、右株券を中央信託銀行大宮支店の貸金庫に預けたが、右株券は、昭和六三年一一月二九日、すなわち、後記のとおり、MUC企画に引き渡された日の前日に、住宅総合センターの担当者により出庫されるまで、右貸金庫に保管されていた(乙第一号証)。
(三) 佐野は、昭和六三年三月ないし四月ころ、昭栄ハウジング株式会社の代表取締役である簗瀬祐右(以下「簗瀬」という。)に対し、中田不動産の所有する土地建物(以下「本件中田土地建物」という。)の売却の話を持ちかけ、その売却方法として、本件中田土地建物が、中田不動産の資産の大部分(九三・八一パーセント)を占めていたことから(別表二の一参照)、中田不動産の発行済み全株式を九億円で譲渡することによって、本件中田土地建物を売却することを提案した。
しかし、右当時、簗瀬は、本件中田土地建物には、入居者がおり、その明渡訴訟が係属している等、本件中田土地建物を株式取得の形で購入するという方法に不安を覚えていたため、右売却の話は進展しなかった(乙第二号証)。
しかし、同年一〇月二〇日ころ、右明渡訴訟が和解によりほぼ解決したことから(乙第一、第二号証)、佐野は、再び、簗瀬に対し、本件株式七二〇〇株の譲渡によって、本件中田土地建物を売却する話を持ちかけ、本件中田土地建物の明渡訴訟の和解に要した費用、仲介手数料等を考慮して、本件株式七二〇〇株を総額一一億円で売却したい旨話した。
簗瀬が、その話を、MUC企画の代表取締役である本橋雄亮(以下「本橋」という。)にしたところ、同人は、MUC企画において、本件株式七二〇〇株を総額一一億円で購入することを決めた。
(四)(1) 一方、佐野は、昭和六三年一一月下旬ころ、深町に対し、中田不動産の株式を深町名義で売買したいので、名義を一〇〇万円で貸してほしい旨依頼した。深町は、右依頼を了承し(乙第五号証)、佐野に指示されるまま、借入れにより一〇〇〇万円を用意するとともに、佐野から四六〇〇万円を借りた旨の同年一〇月二八日付けの「借用金之證」と題する書面を作成し(ただし、担保や利息の定めはない。)、また、同日付けの有価証券取引書を作成した。右有価証券取引書には、すでに必要事項がすべて記載されており、深町は、佐野に指示されるまま、住所、氏名、作成年月日を記入した。
その後、深町は、同年一一月三〇日、佐野の指示により、昭栄ハウジングの事務所に赴き、原告、佐野、本橋らと集合して、本件株式をMUC企画に売却する決済の場に立ち会った後、佐野から額面五七〇〇万円の小切手を受け取り、そのとき、深町名義の株式の売却代金が五七〇〇万円であることを知った。その際、深町は、佐野から前記「借用金之證」を作成した分の四六〇〇万円を渡すように求められたことから、右同日、右小切手を取り立て、同年一二月二一日、四六〇〇万円を現金で佐野に渡した。
ところが、平成元年一二月一日、早稲田開発が税務署の調査を受けたことから、深町は、佐野から、本件株式のうち深町名義でMUC企画に売買した分に関して、有価証券取引書を作成するよう指示され、佐野に指示されるまま、金額、株数、印紙代の額を記入し、さらに作成年月日を、本件株式売却の日である昭和六三年一一月三〇日として、これを作成した。右有価証券取引書の三〇万円の収入印紙については、いったん、深町が購入して貼付したが、その約一週間後、深町は、佐野から、収入印紙代三〇万円を受け取った(甲第六号証、乙第五号証)。なお、甲第六号証には、深町が早稲田開発から本件株式を取得し、同年一〇月二八日に同日付けの「借用金之證」及び有価証券取引書を作成したとの供述記載部分があるが、乙第一及び第五号証に照らし、右部分は、採用しない。
(2) 佐野は、昭和六三年一一月下旬ころ、小林に対し、電話で、中田不動産の株式売買に関して税務対策上株式を売買する人の数が足りないので名義を貸してくれるよう依頼した。小林が、右依頼に問題があると考えて返事に窮していると、原告が電話を代わり、小林に対し、中田不動産の株式売買に関し、税務対策上、是非とも小林の名義を借りる必要があるので、名義を貸してくれるよう要請した。小林は、原告と二〇年来の友人であり、また、原告の経営する会社が小林の経営する会社の得意先であったことから、断りきれずに原告の右要請を受け入れた。そして、小林は、右同日の午後五時ころ、深町と会い、同人より、早稲田開発から本件株式六〇〇株を譲り受けたとする有価証券取引書を作成してほしい旨依頼を受け、その場で、小林が早稲田開発から本件株式を六〇〇株で取得した旨の同年一〇月二九日付けの有価証券取引書を作成するとともに、小林が佐野から四二〇〇万円を借りた旨の「借用金之證」と題する右同日付の書面を作成した。さらに、小林は、平成元年一二月上旬、佐野から、国税局の調査に備えて、本件株式の譲渡について税務対策上書類を整えたいので、事務所まで来るようにとの電話を受け、右事務所を訪れると、佐野から、小林が本件株式をMUC企画に四二六〇万円で譲渡する旨の有価証券取引書を作成してほしいと依頼され、右依頼に応じて、小林がMUC企画に本件株式六〇〇株を譲渡する旨の昭和六三年一一月三〇日付けの有価証券取引書を作成した(甲第六号証、乙第一、第四号証)。
(3) 片見は、昭和六三年九月ころ、原告から、早稲田開発で、中田不動産の株式を持っていると不都合があるので、株式を引き受けてくれないかとの依頼を受け、さらに同年一一月ころ、原告から、本件株式の引受けについて、どの程度資金の準備ができるのか、また、金を都合してくれれば、株式の名義を借りたことのお礼として一〇〇万円を渡すので、名義を貸してほしいと依頼され、原告とのつきあいもあり、原告からも、本件株式の取引は、正当な商行為であり、融資の期間も短期間で済み、迷惑はかけないなどと説明されたことから、これを承諾し、株式の名義を貸すこととした。
そして、片見は、本件株式の裏面に裏書し、その数日後である同年二九日、銀行から一〇〇〇万円の融資を受けて、原告ないし佐野に渡し、同月三〇日、早稲田開発の事務所において、本件株式のMUC企画に対する売却代金として、額面五七〇〇万円の小切手を受け取ったが、その二、三日後、佐野の依頼により、佐野から四六〇〇万円を借りた旨の同年一〇月二八日付けの「借用金之證」と題する書面(ただし、担保や利息の定めはない。)及び同日付けの有価証券取引書を作成し、同年一二月二〇日、佐野の指示により、前記小切手五七〇〇万円のうち、四六〇〇万円を佐野の口座に振り込み、一〇〇〇万円を融資の返済に当てた。しかし、片見は、本件株式の取引について、売却株式数、売却代金等について、原告及び佐野から説明を受けたことはない(甲第六号証、乙第一六、第一七号証)。
(4) 原告及び石原ら三名は、原告が、石原ら三名に対し、各五〇〇〇万円を貸し付けたとする昭和六三年一一月二九日付けの各「借用金之證」と題する書面(甲第二号証の二、乙第一三ないし第一五号証)や、原告及び石原ら三名が、早稲田開発から、本件株式のうち四〇〇〇株を合計二億九四〇〇万円で、それぞれ一〇〇〇株ずつ取得した旨の右同日付けの「有価証券取引書」と題する書面を作成した(甲第二号証の四の一、乙第一三ないし第一五号証)。
(五) 本件中田土地建物の明渡しは、昭和六三年一一月中に完了し、MUC企画は、同月三〇日、本件株式の売買代金として合計一一億円を支払い、本件株式七二〇〇株の株券の引渡しを受けた。売買代金の支払いに係る領収証は二通存在し、一通は、作成名義人として「原田他3名代表石原武彦」との記載のある売買代金四億五六五〇万円のものであり(甲第二号証の七、乙第一三号証別添七)、他の一通は、作成名義人として「片見他3名代表深町金市」との記載のある売買代金四億五八一〇万円のものである。また、MUC企画は、早稲田開発に対し、早稲田開発の中田不動産への貸付金及び利息の返済として合計一億二五四〇万円を支払うとともに、簗瀬に対し、仲介料六〇〇〇万円を支払った(乙第一ないし第三号証)。
(六) 深町、小林及び片見は、本件株式の取引につき、名義貸料として、深町及び片見が各一〇〇万円を、小林が六〇万円を取得した。また、石原ら三名は、本件株式の譲渡に関して、各一〇〇万円を取得した。しかし、原告の申告における原告が得た本件株式の譲渡益は、一億五九五〇万円であり、佐野のそれは、二億一一五〇万円である(別表二参照)。
石原ら六名は、原告又は佐野の依頼により、平成元年一一月ないし同年一二月ころ、昭和六三年一一月二九日付けの本件株式のMUC企画への売買に係る有価証券取引書をそれぞれ作成したが(甲第二号証の四の二、乙第一三ないし第一五号証)、石原ら三名の有価証券取引書に貼付された印紙は、原告がその代金を負担し、深町ら三名の右有価証券取引書に貼付した印紙は、佐野がその代金を負担した(乙第一三、第一四、第一五号証及び原告本人尋問)。
2 原告が若泉土地の譲渡費用として移転補償費六〇〇〇万円を計上した経緯について
(一) 原告は、昭和六三年一月三〇日、大協ハウジングに対し、本件若泉土地を二億六一九〇万九〇〇〇円で売却した(乙第六号証)。本件若泉土地は、面積が、三三四九・四四平方メートル(実測面積)であるから、右売買に係る一平方メートル当たりの売買単価は、七万八一九五円である。
(二) 永徳屋は、右同日、大協ハウジングに対し、本件若泉土地に隣接する土地並びに右土地及び本件若泉土地上に存する建物一八棟(本件若泉建物)を、代金四億五一二五万円で売却するとともに、本件若泉建物の機械設備等を、七五八五万二〇〇〇円で売却した(乙第七号証)。右売買契約の契約書に添付された土地売買等届出書(乙第七号証)においては、永徳屋所有の右土地に関する予定対価の額等は、三億二〇八〇万七〇〇〇円とされ、工作物等に関する予定対価の額等が一億三〇四四万三〇〇〇円とされていることからすると、右土地だけの売買代金は、三億二〇八〇万七〇〇〇円であり、右土地の面積が四一〇二・六六平方メートル(実測地積)であるので、一平方メートル当たりの単価は、七万八一九五円である。
(三) 本件若泉建物の売買代金額は、その適正価格を算出するために、大協ハウジングが不動産鑑定を行う会社にその評価を依頼して、同社が作成した鑑定評価書における評価金額に基づいて決められたものであり、右機械設備等の売却価格も、永徳屋の税理士が作成した「固定資産台帳、原価償却費明細書」に記載された簿価等を基礎として決められたものである(乙第八号証)。
3 本件若泉建物甲の所有関係について
登記簿上、本件若泉建物甲の所有者は、永徳屋である(乙第九号証)。
本庄市の「昭和六三年度名寄帳・課税台帳兼評価調書」(乙第一〇号証)によると、本件若泉建物甲は、永徳屋が所有者で、納税義務者である旨記載されている。
昭和五八年一一月九日付けで作成された被相続人須田武夫に係る遺産分割協議書(乙第一一号証)には、本件若泉建物甲についての明記はなく、相続財産明細にも記載されていない。
さらに、本件若泉建物甲は、永徳屋が大協ハウジングに売却した本件若泉建物のうちの一棟であるところ(乙第七号証)、本件若泉建物を売却する旨の前記契約書は、原告が永徳屋の代表社員として作成したものであるから、原告自身、本件若泉建物甲を永徳屋所有の建物として取り扱っていたということができる。
これらの事実を総合すれば、本件若泉建物甲の所有者は永徳屋であったと認めることができる。
4 本件銀座土地の借地権の買取費用について
本件銀座土地の譲渡収入金額は、一億二七六四万円であり、借地権割合は、〇・六である。
本件銀座土地上には、原告所有の建物が五棟と、永徳屋所有の建物が二棟存在するが、「昭和六三年度名寄帳、課税台帳兼評価調書」においては、原告所有の建物五棟の一階床面積は、それぞれ五九・五〇平方メートル、二九・七五平方メートル、一八・五一平方メートル、六九・四二平方メートル、四六・四七平方メートルであり、これらの合計は、二二三・六五平方メートルである。これに対し、永徳屋所有の建物二棟の一階床面積は、それぞれ三三・〇五平方メートル、一一五・七〇平方メートルであり、これらの合計は、一四八・七五平方メートルである(乙第一二号証)。
四1 <1>本件株式の譲渡所得が、分離短期譲渡所得として課税対象となるか
(一) 前記認定した事実によると、本件株式のMUC企画に対する譲渡について、原告、佐野、石原ら六名の各譲渡株式数は、原告、石原ら三名及び佐野が、各一〇〇〇株、深町及び片見が各八〇〇株、小林が六〇〇株である旨の有価証券取引書が作成されている。他方、右譲渡による譲渡益については、原告は、原告が一億五九五〇万円(譲渡益合計に占める割合は四二・三五パーセント)、佐野が二億一一五〇万円(右割合は、五六・一六パーセント)であるのに対し、石原ら三名、深町及び片見が各一〇〇万円、小林が六〇万円である旨主張しており、石原ら三名、深町ら三名の譲渡益は、原告及び佐野のそれに比較し、右譲渡株式数を前提とすると著しく少額であって、極めて不自然である。本件株式のMUC企画への譲渡に関する交渉には、専ら佐野が当たっていること、本件株式のMUC企画への譲渡の話と石原ら六名の本件株式の取得、譲渡の話がほぼ併行して進んでいること、昭和六三年一一月下旬に、佐野が深町ら三名に対して、本件株式を早稲田開発から取得するための資金を貸し付けたことを内容とする同年一〇月二八付けの「借用金之證」がそれぞれ作成された上、本件株式が、早稲田開発から深町ら三名へ譲渡された旨の同日付けの有価証券取引書が作成され、本件株式のMUC企画に対する売却の決済が行われた昭和六三年一一月三〇日の後になって、深町ら三名からMUC企画へ譲渡された旨の有価証券取引書が作成されていること、しかも、右有価証券取引書に貼付された印紙については、石原ら三名の分の代金を原告が、深町ら三名の分の代金を佐野がそれぞれ負担していること、さらには、前認定のとおりの原告及び佐野と石原ら六名との人的関係等に照らすと、本件株式を早稲田開発から取得し、MUC企画へ譲渡した主体は、原告及び佐野であって、石原ら六名は、単に名義を貸したにすぎず、その取得した一〇〇万円ないし六〇万円は、右名義貸しに対する謝礼として原告又は佐野から支払われたものであると認めることができる。
(二)(1) 原告は、本件株式は、未公開株式であり、その価格は、売り手と買い手との相対による合意により決められるのであるから、原告の譲渡益と石原ら三名のそれとの間に、相違があっても何ら不自然ではないし、原告は、その費用と労力で、中田不動産が所有する建物からテナントを立ち退かせる問題を解決したことがあり、それを売却価格に反映させたのであるから、原告の本件株式の価格に、不合理性はないと主張し、これに沿う供述をしているほか、石原ら三名は、国税不服審判所において、実際に、原告から本件株式購入資金を借りて、本件株式を購入した上、MUC企画にこれを売却したのであり、石原ら三名が、本件株式の取引主体であった旨供述している(甲第一、第三号証、乙第一三ないし第一五号証、原告本人の供述)。
しかしながら、本件株式をMUC企画に売却する交渉は、専ら佐野が、梁瀬を仲介者として行っており、石原ら三名が、MUC企画と直接又は梁瀬と交渉したという事実を認めることはできず、本件株式の売買代金は、佐野と本橋との間において、本件株式の引き当てとなる中田不動産の資産の大部分を占める本件中田土地建物の価値に着目して、仲介手数料等をも含んで、総額一一億円と決定されたことに照らせば、原告と石原ら三名が別個にそれぞれの意思を反映させて売買代金額を決定したものでないことは明らかである。
(2) また、原告は、本件中田土地建物からの立退きを渋るテナントの権利主張や民事介入暴力による被害等の事情があったと主張する。
しかし、右主張自体は、単に早稲田開発が本件株式を譲渡する動機となるにすぎず、原告及び佐野のほかに、石原ら六名が本件株式を取得したことの根拠たり得ないものであるばかりか、乙第三号証によれば、石原ら三名が、本件株式を取得したとされる昭和六三年一〇月二八日ころには、本件中田土地建物に係るテナントの明渡訴訟が和解により解決し、本件株式のMUC企画に対する売却の際、本橋が本件中田土地建物を見に行った時には、立退きが完了した状態であったという事実が認められるのであるから、この点においても、前記原告の主張は、石原ら三名が本件株式を取得していたことの根拠となるものではない。
(三) さらに、原告は、仮に、本件株式を石原ら三名が取得、譲渡したものではなかったとしても、本件株式のMUC企画への売却に係る譲渡益は、早稲田開発に帰属するから、いずれにしても、原告が、本件株式の売却の譲渡益につき課税されることはないと主張する。
右主張につき、被告は、時機に遅れた主張であるとして、却下を求める。しかし、右主張は、本件訴訟における原告の従前の主張や立証を前提としたものであり、右主張について、新たな立証をするものでもない。したがって、これが時機に遅れた主張であってこれにより訴訟の完結を遅延させるものであると認めることはできないから、被告の右主張は、採用しない。
原告は、右主張の根拠として、本件株式は、MUC企画に売却されるまで、早稲田開発の住宅総合センターからの借入の担保として住宅総合センターが保管していたこと(前記三1(七))、本件中田土地建物からのテナントの立退きに要した六〇〇〇万円は、早稲田開発が負担したこと、MUC企画に対する本件株式の売却の交渉を行った佐野は、早稲田開発の代表取締役であることを主張する。
しかしながら、早稲田開発が本件株式を売却した相手方はMUC企画ではなく、原告及び佐野であることは、これまで説示したところから明らかであり、本件株式のMUC企画に対する譲渡に係る譲渡益が早稲田開発に帰属するものではないというべきである。
早稲田開発が、住宅総合センターから、本件株式の取得資金を借り入れ、その担保のために、住宅総合センターに本件株式を差し入れた場合、早稲田開発が右借入れを完済するまで、住宅総合センターが本件株式を保管するのは、当然であり、原告が現実に本件株式を保管していなかったとしても、そのことから、本件株式のMUC企画に対する譲渡に係る譲渡益が原告に帰属しなかったとはいえない。また、本件中田土地建物の立退きの問題は、早稲田不動産が本件株式を所有していた間に和解で解決しているのであるから、早稲田開発が、右立退き問題の解決のために要した費用六〇〇〇万円を負担するのは当然であり、原告に本件株式の右譲渡益が帰属しないことを根拠付けるものではない。さらに、佐野は、早稲田開発の代表取締役であって、本件株式のMUC企画への売却の交渉を行っていたのであるが、本件株式をMUC企画が買受けた際の売買代金の領収証の作成名義人は、早稲田開発になっておらず、かえって、原告自身、本件株式を早稲田開発から譲り受け、MUC企画に譲渡したことにより、譲渡益を取得したこと自体を認めているのであるから、佐野が早稲田開発の代表取締役としての立場で行動していたとは認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
(四) 以上より、本件株式の実質的な取引主体は、原告及び佐野であり、原告及び佐野は、自己への課税を回避するために、石原ら六名の名義を借りて、本件株式の譲渡所得を分散したのであって、石原ら六名は、本件株式の取引主体ではなく、名義を貸したにすぎないものであると認めることでき、これに反する前記(二)(1)記載の証拠は採用しない。
そして、前記「借用金之證」上では、原告が、石原ら三名に対し、佐野が深町ら三名に対し、それぞれ本件株式を購入する資金を貸し付けたことになっているほか、専ら、原告が、石原ら三名に、佐野が、深町ら三名に本件株式の取引について名義を貸すように依頼しており、本件株式をMUC企画に売買した代金の領収証も、石原ら三名作成名義のものと深町ら三名作成名義のものとに分かれていることに照らすと、本件株式の取引に当たって、石原ら三名は、原告に、深町ら三名は、佐野にそれぞれ名義を貸していたのであって、石原ら三名名義の本件株式合計三〇〇〇株の譲渡益は、原告に、深町ら三名の名義の本件株式合計二〇〇〇株の譲渡益は、佐野にそれぞれ帰属すると認められ、原告に帰属する譲渡益は、原告名義の譲渡に係る一億五九五〇万円に、石原ら三名に対して支払われた謝礼の合計に相当する三〇〇万円を加えた一億六二五〇万円である(別表二の二)。
(五) ところで、旧所得税法九条一項一一号へは、有価証券の譲渡による所得のうち、事業又はその用に供する資産の譲渡に類するものとして政令で定める有価証券の譲渡による所得などを除き、非課税とする旨定め、右規定を受けた旧施行令二八条は、有価証券の発行法人の株主等であって、当該法人の発行済株式総数の一〇〇分の三〇以上の株式を有していること、一定期間内に右発行済株式総数の一〇〇分の一五以上の株式を譲渡したこと等の要件を満たす場合には、事業又はその用に供する資産の譲渡に類する有価証券の譲渡として非課税とされない旨を定めている。
本件株式七二〇〇株全体について、その取得費、収入金額を基に算出した譲渡益は、三億七六六〇万円であり(別表二の二)、原告に帰属する譲渡益は、一億二五〇〇万円であって、その全体に対する割合は、四三・一五パーセントである。そして、本件株式七二〇〇株のMUC企画に対する売却については、佐野が交渉に当たり、全株式に対する総額で代金が決定されたのであり、株式により譲渡益が異なるような事情は認められないから、一株当たりの譲渡益は同額であると認めるのが相当である。
よって、原告が取り引きした本件株式の株式数は、発行済株式総数の四三・一五パーセントを占める。したがって、原告の本件株式の譲渡による所得は、非課税所得としての要件を満たさず、課税対象となる。
また、本件株式を発行する中田不動産の有する土地の価額は中田不動産の資産の価額の九三・八一パーセントに相当し、措置法三二条二項、同法施行令二一条五項に該当するから、右所得は、分離短期譲渡所得となる。
2 <2>移転補償費の譲渡費用性について
原告は、移転補償費として永徳屋に対して六〇〇〇万円を支払ったが、これは、原告が本件若泉土地を売却するために必要な費用であり、譲渡費用として計上されるべきものであると主張し、その理由として、本件若泉建物のうちに永徳屋が冷蔵庫として使用していた建物があり、永徳屋に本件若泉建物の売却を応じさせ、これによって本件若泉土地を大協ハウジングに売却することを可能とするために、永徳屋が他の場所に冷蔵庫として使用できる建物を求めるための費用として右移転補償費を支払ったものである旨主張すると解される。
しかし、右移転補償を支払わなければ原告が代表社員である永徳屋が本件若泉建物の売却に応じなかったものであるかは疑問であって、原告が永徳屋に右移転補償費用を支払うべき合理性、必要性は認め難い。
よって、本件若泉土地の売買に係る所得の算出に当たり、永徳屋に対する移転補償費の支払いを右土地の譲渡費用として計上することはできない。
3 <3>本件若泉土地の譲渡所得について
原告は、昭和四〇年以来、本件若泉建物甲に継続して居住しているのであるから、本件若泉建物甲は、原告の居住用財産として、本件若泉土地の譲渡所得の算出に当たっては、居住用財産の特別控除(措置法三五条一項)が適用される旨主張する。
措置法三五条一項の居住用財産の特別控除が適用されるのは、個人がその居住の用に供している家屋を譲渡する場合や、個人が、その居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供されている土地を譲渡する場合であり、個人が家屋等を譲渡するためには、その前提として、個人が当該建物の所有者でなければならない。
しかるに、前記三3のとおり、本件若泉建物甲の所有者は、原告ではない以上、右条項の適用の余地はない。
4 <4>本件銀座土地の借地権相当額及び右借地権取得に対する課税の位置付け
(一) 原告は、永徳屋は、本件銀座土地上の原告所有建物を含むすべての建物を使用することによって、本件銀座土地を占有し、これに対して地代を支払っていたのであるから、本件銀座土地すべてに借地権を主張しうる地位にあった者であり、被告が、本件銀座土地の譲渡所得の算出に当たり控除する借地権相当額として、原告所有建物と永徳屋所有建物の一階の床面積の割合に応じて、控除額を算出したのは誤りである旨主張する。
また、原告は、被告が、永徳屋からの本件銀座土地借地権の買取費用は、本件銀座土地の譲渡に係る分離長期譲渡所得の算出における必要経費とすべきであって、被告がこれを本件銀座土地の借地権譲渡の分離短期譲渡所得の必要経費と位置付けたことは、取引の実体をみない、機械的、形式的論理であり不当である旨主張する。
(二) しかし、前記三4に認定したとおり、本件銀座土地上には、原告所有の建物が五棟と、永徳屋所有の建物が二棟存在し、原告所有の建物の五棟の一階の総床面積は、二二三・六五平方メートルであり、永徳屋所有の建物二棟の一階の総床面積は、一四八・七五平方メートルであるが、本件銀座土地の建物七棟のうち、原告が所有する建物についてまで、永徳屋の借地権が及ばないのは当然であって、本件銀座土地の面積のうち、同土地上のすべての建物の一階床面積に対して、永徳屋所有建物の一階床面積が占める割合、すなわち、三七二・四平方メートルに対する一四八・七五平方メートルの割合が、永徳屋の借地権の及ぶ範囲と認めるのが相当であり、本件銀座土地の価額(譲渡収入金額)に右割合を乗じ、これに借地権割合を乗じて得られる額をもって借地権相当額とし、これを必要経費として認めるのが相当である。
なお、原告は、原告所有の五棟の建物を永徳屋が物置として使用していたから、永徳屋は、本件銀座土地全部について借地権を主張しうる地位にあった旨主張する。しかし、右主張は、右原告所有の右建物について借家権を有するものというにすぎず、借家権が存在するとしても、それをもって、右建物の敷地に対する借地権を有すると認めることはできないから、原告の右主張は失当である。
(三) そして、本件銀座土地の売買価格は、一億二七六四万円であり、借地権割合は、〇・六とするのが相当であるから、本件銀座土地の借地権相当額は、三〇五九万円であり(別紙計算書のとおり)、本件銀座土地の譲渡価格は、売買価格一億二七六四万円から借地権相当額三〇五九万円を控除した九七〇五万円である。
(四) 原告は、本件銀座土地を売買するに当たって、永徳屋から右借地権を買い取ってこれを消滅させたのであり、右借地権の取得経緯に照らすと、右借地権の所有期間が五年以内であることは明らかであるから、被告が右借地権を取得し、消滅させたことを分離短期譲渡所得に係る譲渡として取り扱ったことに違法はない。
五 本件更正処分の適法性
争いのない事実及び以上に説示したところによると、原告の本件事業年度の所得金額は、次のとおりであると認められる。
1 不動産所得の金額 三一万六〇〇〇円
2 給与所得の金額 一二六五万五〇〇〇円
3 総所得金額(1と2の合計) 一二九七万一〇〇〇円
4 分離短期譲渡所得の金額 二億四五二三万二四九七円
右金額の内訳は、次の(一)ないし(四)の合計額である。
(一) 原告が譲渡した本件株式三一〇七株(全株式七二〇〇株の四三・一五パーセントに相当する株式数)の譲渡益に係る分離短期譲渡所得の金額 一億五九九八万九二五〇円
譲渡益(一億六二五〇万円)から譲渡費用(本件株式三一〇七株の譲渡に係る有価証券取引税額二五一万〇七五〇円)を控除した額である。
(二) 本件若泉土地譲渡の分離短期譲渡所得の金額 九〇六一万六七一五円
収入金額(二億六一九〇万九〇〇〇円)から取得費(一億四七〇八万五二八五円)及び譲渡費用(二四二〇万七〇〇〇円)を控除した額である。
(三) 本件銀座土地上の借地権譲渡の分離短期譲渡所得の金額 〇円
収入金額(三〇五九万円)から必要経費(本件銀座土地借地権相当額三〇五九万円)を控除した額である。
(四) 本件児玉土地譲渡の分離短期譲渡所得の金額 △五三七万三四六八円
収入金額(一億六三七八万円)から取得費(一億六七八五万三四六八円)及び譲渡費用(一三〇万円)を控除した額である。
5 分離長期譲渡所得の金額 五七七九万〇二一三円
右金額は、次の(一)及び(二)の合計額から(三)を控除した額である。
(一) 本件銀座土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額 五七三六万五二一三円
右金額は、収入金額、すなわち、本件銀座土地の譲渡価額九七〇五万円から、買換資産の取得価額四五七五万円を控除した金額(五一三〇万円)に、右買換資産の取得価額の二〇パーセント相当額(九一五万円)を加えた金額の合計の合計(六〇四五万円)から、必要経費(三〇八万四七八七円)を控除した額である。
(二) 本件本庄土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額 一四二万五〇〇〇円
右金額は、原告が、昭和六三年、大協ハウジングに対し、本件本庄土地を譲渡したことによる土地譲渡の分離長期譲渡所得の金額(措置法三七条適用後の金額)であり、収入金額(一五〇万円)から取得費(七万五〇〇〇円)を控除した額である。
(三) 長期譲渡所得の特別控除額(措置法三一条四項) 一〇〇万円
6 所得から差し引かれる金額 二七四万八二六〇円
7 課税される所得金額
(一) 課税総所得金額 一〇二二万二〇〇〇円
右金額は、3の総所得金額から、6の所得から差し引かれる金額を控除し、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である(通則法一一八条一項)。
(二) 課税分離短期譲渡所得の金額 二億四五二三万二〇〇〇円
右金額は、4の分離短期譲渡所得の金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である(通則法一一八条一項)。
(三) 課税分離長期譲渡所得の金額 五七七九万円
右金額は、5の分離長期譲渡所得の金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である(通則法一一八条一項)。
8 算出税額 一億七〇七〇万八二六〇円
右金額は、次の(一)ないし(三)の合計額である。
(一) 課税総所得に係る算出税額 二一八万八八〇〇円
右金額は、7(一)の課税総所得金額に昭和六三年分の所得税の臨時特例に関する法律(昭和六三年法律第八五号)に規定する税率を適用して算出したものである。
(二) 課税分離短期譲渡所得に係る算出税額 一億五六〇七万一九六〇円
右金額は、7(二)の課税分離短期譲渡所得の金額に措置法三二条を適用して算出したものである。
(三) 課税分離長期譲渡所得に係る算出税額 一二四四万七五〇〇円
右金額は、7(三)の課税分離長期譲渡所得の金額に措置法三一条を適用して算出したものである。
9 源泉徴収税額 二六五万一八九〇円
10 納付すべき税額 一億六八〇五万六三〇〇円
右金額は、8の算出税額から9の源泉徴収税額を控除した額について、一〇〇円未満の端数を切り捨てた額である(通則法一一九条一項)。
11 本件更正処分の適法性
原告の本件事業年度所得税の課税される総所得金額は、一〇二二万二〇〇〇円、分離短期譲渡所得の金額は、二億四五二三万二〇〇〇円、分離長期譲渡所得の金額は、五七七九万円、納付すべき税額は、一億六八〇五万六三〇〇円であり、本件更正処分における金額といずれも同額であるから、本件更正処分は、適法である。
六 本件各賦課決定処分の根拠及び適法性
1 本件過少申告加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性
本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった所得(ただし、本件株式の譲渡による所得を除く。)のうち、原告が確定申告の所得としなかった部分につき、通則法六五条四項の「正当な理由」は認められないから、本件更正処分により、原告が納付することとなった所得税(本件株式の譲渡による所得を除いた所得に対応する本件更正処分額と修正申告額との差額)について、同法六五条の規定に基づいてされた本件過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、裁決により変更された後のもの)は、適法である。
2 本件重加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性
原告は、前認定のとおり、本件株式を取得、譲渡するにつき、石原ら三名の名義を借りたのであり、右行為は、通則法六八条一項に定める「隠ぺい又は仮装」に該当することは明らかである。
よって、原告の本件株式の譲渡による所得について重加算税を賦課した本件重加算税の賦課決定処分(ただし、裁決により変更された後のもの)は適法である。
七 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年五月一七日)
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 白井幸夫 裁判官 檜山麻子)
別表一
本件各課税処分の経緯
<省略>
別表二の一
中田不動産の株式譲渡時の資産と本件中田不動産土地の占める割合(昭和63年10月31日現在)
1 本件株式の譲渡時の資産の試算表と本件株式の譲渡額との比較
<省略>
2 本件中田不動産土地の評価額((5)の<2>)の計算
<省略>
3 資産の価額の総額に占める本件中田不動産土地の割合(93.81パーセント)
<省略>
別表 二の二
原告と佐野の本件株式の譲渡益の計算
<省略>
別表 二の三
グループ別の本件株式の譲渡益の計算
<省略>
別表 二の四
原告、佐野の本件株式の譲渡益と原告ら計算との比較
<省略>
(別紙)計算書
<省略>